真言宗泉涌寺派大本山 法楽寺

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‡ なぜ酒を飲んではいけないのか ―明恵

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1.飲酒戒

蠱毒は只一生を亡ぼす失あり。酒毒は是多生をせむる罪あり

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2.喜海『栂尾明恵上人伝記』巻下 対訳

蠱毒は只一生を亡ぼす失あり。酒毒は是多生をせむる罪あり

原文
或る時、上人久しく冷病に侵されて不食[ふじき]し給ひける比[ころ]、医博士和気[わけ]の某[なにがし]、訪[とぶら]ひ申さん為に参りたりけるが申しけるは、此の御労はひえの故也、山中霧深く、寒風烈しき間、美酒を毎朝あたゝめて少しづゝ服せしめ給はば宜しかるべき由申しければ、上人仰せに云はく、「法師は私の身にあらず。一切衆生の為の器[うつはもの]也。仏、殊に難処に入りて誡め給ふも此の故也。放逸に身を捨つべきにあらず。其の上、必死の定業[じょうごう]をば仏も救ひ給はず。去れば耆婆[ぎば]が方も老いを留むる術なく、扁鵲[へんじゃく]が薬も死を助くる徳なし。若し予暫[しば]しも世に住して益有るべきならば、三宝の擁護により病愈え、命延ぶべし。さあるまじきに於いては、仏の堅く誡め給ふ飲酒戒[おんじゅかい]をば犯すべからず。殊に酒は二百五十戒の中より十戒にすぐり、十戒の中より五戒にすぐりたる、其の随一也。蠱毒[こどく]は只一生を亡ぼす失あり。酒毒は是多生[たしょう]をせむる罪あり。縦ひ一旦かりの形を助くとも、小利大損たるべし。仏は、寧ろ死すとも犯すべからずと誡め給へり。予若し薬の為に一滴をも服せば、何事がな、かこつけせんと思ひげなる法師共、故御坊も時々酒は吸い給ひしなんど云ひ、ためし引き出して、此の山中さながら酒の道場となるべし。仍りて斟酌[しんしゃく]無きに非ず」と云々。

現代語訳
ある時、明恵上人が長い間冷病におかされ、食事もとらずにおられた頃、医博士の和気のナニガシという者が、往診のために来たときに言うには、「このご病気は冷えに起因するものです。(上人がお住まいの栂尾の)山中は霧が深く、寒風吹きすさぶので、旨い酒を毎朝あたためて少しずつお飲みになれば快方に向かうでしょう」と。このような診断を下したところ、上人がおっしゃるには、「法師は私人ではない。生きとし生ける者を諭し導く器である。仏陀が、とりわけ難所に踏み込んで戒められたのも、そのような理由からである。放逸さに身をまかせるべきではないのだ。さらに言うならば、生命は必ず死ぬべき者であって、仏陀ですら死からお救い下さるなどということはない。よって(釈尊の在家信者であり、当代随一の名医であった)ジーヴァカの腕をもってしても老いを止める術はなく、(中国は戦国時代の伝説的名医である)扁鵲[へんじゃく]の処方薬にも死を免れる効能などないのだ。もし、私がもう少しこの世に生きながらえて役に立つようであれば、三宝のご加護によってこの病も癒え、命を落とすことはないだろう。もし命を落とす事になろうとも、仏陀が堅く戒められた飲酒戒を犯してはならない。とりわけ酒は、比丘の二百五十戒の中から沙弥の十戒に取り入れられており、沙弥の十戒から在家の五戒にも取り入れられたもので、諸戒の中でとりわけ重要なものである。死に至らしめる病は、ただこの人生を亡ぼすだけの禍である。しかし酒という毒は、この人生だけでなく幾多の来世において自分に苦しみをもたらす罪となる。たとえ、(酒が)いずれは滅び去るこの身を一時的に助けたとしても、得るものは少なく、失うものは多大である。仏陀は、むしろ死ぬとしても(飲酒戒を)犯してはならないと戒められたのだ。私がもし(酒を)薬として一滴たりとも飲むことがあれば、こともあろうに、なにかとカコツケたがる法師達は、「亡くなったかの明恵上人ですら、時々酒お飲みになっていた」などと言い、恰好の先例として引き合いに出して、(その結果)この栂尾の山中はさながら酒の道場になってしまうだろう。よって、たいした考えも無しに(このように厳しく飲酒戒を守ると)言っているのでは無いのだ」と。

出典:喜海『栂尾明恵上人伝記』巻下(『明恵上人集』岩波文庫,P162-163)
[訳文:沙門 覺應]

沙門 覺應 (horakuji@live.jp)

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